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『Pet Sounds』 The Beach Boys

2009年04月21日 23:29

今回はちょっとまともに書けないかも……。
とても有名だし、情報も沢山出回ってるけど、個人的にも凄く大切なレコードだし……。
とりあえず時代背景から。

60年代中頃までロックンロール・スィンギンロンドン・ブリティッシュインベンションは絶好調で続いていくが、それに少し変化が現れ始める。きっかけはビートルズがアイドル性を返上し、遂にアートロックの領域に踏み込み始めたこと。大衆ポップスとアート性の高い両立は『Rubber Soul』によって成される。この後、更なる怪作を作り上げるビートルズを旗印に、ロックンロールに代わるムーブメント、ロックをアートにしようとする初の大衆的試みが始まる。サイケデリックな時代が来る。

一方、アメリカのバンドの多くやポップシンガーたちは、イギリス勢に押されて勢いを失っていた。ビートルズを真似たポップグループとしモンキーズが登場したりした。
そんな状況で、唯一と言ってもいいくらいにその勢いを徐々に高めていたバンドがビーチボーイズだった。ブライアン・ウイルソンはバンドの曲作りのリーダーとして、数々の高精度なポップソングを量産、名実共にアメリカのトップグループであったが、彼の視点は大衆ポップスを作ることではなく自己表現に向かっていた。それがバンドやレコード会社との軋轢などを生み、精神を病み、いつからか彼はライブに同行せず、スタジオに籠ってレコーディングを繰り返すことになる。すべてはイメージの表現のために。
で、ビートルズの『Rubber Soul』にロックの可能性を見て、そしてビートルズの脅威に震え上がったブライアンが、それを超えんとすべく、そして自分の目標も達成しようとすべく、ドラッグだの確執だのに塗れながら作った1966年のレコードが『Pet Sounds』だった。
Pet SoundsPet Sounds
(1999/07/13)
The Beach Boys

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バンド名義ではあるが、レコーディングはほぼ全てブライアンとスタジオミュージシャンによって行われ、ツアーから帰ってきたバンドメンバーはブライアンにこういう風に歌え・コーラスしろと命令される。サーフィン・ホットロッドなアメリカの青春を歌うバンドだったビーチボーイズのメンバーは出来上がっていた音源の方向性の違いに困惑、メンバーの一人であるマイク・ラブは呆れ返り、「これは誰に聴かせる音楽だ!イヌか!?」と言い放つ。結局これがアルバムタイトルになるのだが。

それでもなんとかメンバーはレコーディングに協力し、そしてアルバムは完成する。しかし内容があまりにこれまでのバンドのパブリックイメージ(「明るい」ビーチボーイズ)から外れ過ぎていたため、レコード会社も、そしてビーチボーイズのファンも難色を示し、売り上げは低迷。慌てたレコード会社は急遽ベスト盤を作成し、こっちは売れたのでそれによってこのアルバムは打ち消された。

しかし、海の向こう、新しい時代(サイケデリック!)に向かおうとしていたイギリスのミュージシャンたちやそのファンなどは、この新しくも不思議なレコードの魅力にいち早く気づき、賞賛したり畏怖の念を抱いたりしたという。このアルバムの当時いちばんのファンは、皮肉にも当時ビーチボーイズの最大のライバルであった甲虫集団の主軸・ジョンとポールであった。彼等二人はこのアルバムに大きな衝撃と影響を受け、自分たちの音楽性を更に模索していくのであった。『Sgt.Pepper's~』に続いていく。

以上がヒストリー的な流れ。この歴史的推移が凄く好きで、これが私がロックというジャンルに深くはまり込んでいくきっかけを作った。海を越えて高めあうライバルたちって格好良くないですか!?

まあともかく、ここからアルバムの解説を。

まず、このアルバムはライブを目的に作られていない。完全に何らかの想像力の「表現」に向けて作られたものである。だから、ライブ感があった当時のロックンロールレコードとは全く方法論が違う。全体的にどこか現実味の無い音像、薄皮一枚分向こうの世界で鳴っている様な音楽がここにはある。

しかし、その感覚はまた、後に沢山出てくるどのサイケデリックレコードとも違う雰囲気が漂う。

まず、60'sサイケデリックのレコードは大きくわけて二つのタイプが存在する。

一つは頭の中が花畑的なポップさを持ったもの。ビートルズの『Sgt.Pepper's~』をはじめ、ストーンズやフーやスモールフェイセズといったUKの多くのポップ・ロックバンドはこのような方向に向かう。楽しく転がり回るピアノ、高々と鳴り響くホーン、そして美しくそして楽しげにポップなメロディなどが特徴である。この方向性はゾンビーズによって極められる。このアルバムはそのうち紹介する。

もう一つはブルースから発展していったサイケである。ギターを激しく歪ませたりエフェクトをかけたりし、ねっとりとした音空間を構築、渋く病みついた光景を作り出す。ジミヘンやクリームが代表格だろう。

本当ならもう一つ、もっとアングラな、どうしようもなくドロリとした音だったり、幻惑的な音だったりを作る趣向もあるが、これはサイケデリックレコードの中でも少しマニアックなバンドになってくる。有名なバンドにもこういった楽曲はあるが、流石にこれをメジャーで売っていくには不健全なものであった。唯一、ピンクフロイトの1stはアングラシーンの混沌とサイケデリックの中でも異端的な破滅的・退廃的な音像を(それでもメジャーの締め付けで幾分濃度を薄められながらも)メジャーシーンにおいて展開した。こういった不健全サイケはむしろアメリカで花開く。

翻って、このビーチボーイズの名盤は確かにサイケデリックレコードに挙げることが出来なくもないのだが、しかしその性質は、上の三つのものとはまた違った風であった。幻想的ではあるが、美しくはあるが、それはどこか寂しげで空虚で、露悪的な不健全というよりはもっと消極的なダウナーさ・やるせなさに満ちていた。音が描き出す情景がどこまでも青く、そして寂しい。ドきついカラフルではなく、どこまでも空疎で淡い。

ロックンロールを遥かに無視した楽器選択、特にパーカッションの多用とドラムの簡略・省略、そして絶妙のリバーブ感が心地よい浮遊感と奥行きを音に与える。で、その上に乗るコーラスがまた何と言えばいいのだろう。『God Only Knows』ほどコーラスワークの美しいポップソングがあろうか。重厚だが優しい。最早最上のキーボードの類のようだ。

歌詞のほうもまた、そういった音のイメージと素晴らしくマッチしている。ブライアンの心情をトニー・アッシャーが綴った歌詞はありとあらゆる微妙な感情を切り取る。そんなに難しい言い回しは無いが、それがかえってさりげなく気持ちを揺れを表現する。そしてそこには沢山の諦め、静かな絶望で満たされている。あるいは、純粋を失うことの悲しさ。


あの長い髪はどこに行ってしまったの?僕の知ってた女の子はどこに行ったの?
僕たちが感じていたあの幸せをどうしてなくしてしまったんだ?ああキャロライン。
                                     (Caroline No)


よしんば上手く行っている時でも、それが非常に微妙なバランスで出来ていることが分かる。ひとたび崩れてしまえばそれがすぐ絶望に繋がる様な、あやういバランス。


君がさよならを言うのなら、、、まあそれでも人生は続いていくけど
信じて、、、この世界はもう僕にとって意味がなくなってしまう
そんな人生で、楽しいことなんかあるの?
君がいなくなって僕がどうなるか、そんなの神様しか知らないよ
                                       (God Only Knows)


書き出してみたら意外と普通なフレーズのように思えるけど、これが音と合わさった時の説得力というのは物凄いものがある。この説得力は、演技や技術じゃ出せない。

詰まるところ、こういう微妙なバランスの幸せや切なさを歌うポップソングというのはこのアルバムから始まったと言っても過言ではない。オンナにフラれた帰ってきてよ悲しいよ~なんて激しい次元ではなく、もっとどうしようもない、消極的な気持ち。なんとなくどうしようもない彼等は、明るい日でも暗い日でも、ただ海を眺めるくらいしか出来ることが無い。そんな。



アルバムレビューなんかで「この名盤が分からない人は何度でも聴いて開眼すべき!」みたいなレビューがあるが、そんな図々しい気持ちでこのアルバムに接するなんてアレだ!また、このアルバムをオシャレなソフトロックの名盤の一枚みたいにカウントする向きもあるけど、それもなんか違う気がする。上手く説明できないのは、音楽が言葉ではない何かを表しているから。そういう姿勢が痛いくらいに良く伝わってくる、大切な一枚。こんなの書くのもアレだけど、私の、青春の一枚。これと岡崎京子のせいでどれだけ空疎な青春を送ったことか。難解とか言うが、別にそんなこと無い。このいかんともしがたい感情が分かりさえすれば。

このときブライアン24歳。

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