更新頻度の減少に関して特に反省はない

 2006-10-21

前回の更新に比べて百分の一も労力が掛かっていない、

授業中に暇つぶしで書く謎の詞のコーナー、復活。


 びんぼう


楽したい 苦労したくない

当然の悩みです

枯らしたり 転がしてたり

維持も手が掛かる


That Life


貧しさに泣き出したり

ありがちな話です

アメリカに留学したい?

寝言は布団の中で

言え


安いメシを食らう

やりくりに戸惑う

憐れみを待ってる

びんぼう


夜になり風がフワリ

隙間を埋めないと

マラリアに苛まれたサリー

ワタシもそんな感じで


不味いメシを食らう

体調が崩れる

髪の毛も抜ける

生活になってねえ

それでも息はある

憐れみを待ってる

金が欲しいのさ

ああ びんぼう



 ソルティー


海を見てふと思った事は

秋空に攫われてしまった

潮風に曝された自転車

いつの日か錆びてしまうだろうな


どれくらい待ったら

迎えは来るのですか


砂の城踏み潰す君は

探し物 投げ出したのか

冷静を装っているつもりか

どうでもいいかそんな事なんてさ


温かいコーヒーが

次第に美味しくなっていく

どれくらい待ってたら

迎えは来るのですか

急ごしらえ小説『セレモニー』

 2006-10-01

天神の冬はそれなりに寒い。きっと北海道や東北地方ほどは寒くないんだろうけれど、東京や大阪とは同じくらいか、もうちょっと寒いんじゃなかろうか。街にはコートやジャンバーを着た、マフラーやニット帽なんかを着用した人たちがぞろぞろと歩いている。白い息を吐きながら。クリスマスを前に控えていて、街は活気付いていた。今年は少し珍しい事に、十二月の中ごろに雪が降った。それが今日の三日前であったか。その日僕は家の中で、振りゆく雪を見ながらストーブの前でじっとしていた事を覚えている。どうも今年は例年に比べて少し寒い気がする。

 今日はたまたま晴れの日で、それでも気温は低く、厚着は必須であった。しかし、日なたに出ると太陽の光が降り注ぐので、少しだけ暖かい感じがする。渡辺通りにはサンタクロースの格好をしてデパートのセールやら何やらの宣伝をする人がいたりした。こんなに寒い日でも天神の人の足は減る事を知らず、むしろクリスマスが近いせいか、普段よりも大勢の人が歩いていたように思う。それらの多くはやはり、カップルや親子連れ、友達同士などの、幸せそうな人々であった。

 そんな日、僕は黒いスーツを着て、岩田屋のG‐Sideと呼ばれる場所である人々が来るのを待っていた。少し早めに来すぎてしまって(確か待ち合わせ時間の十五分前くらい?)、どうやら僕が一番最初に待ち合わせの場所に来てしまったらしく、一番上にスーツを着ているためあまり厚着できないのもあって、寒い中それなりの時間をひとり寒さに震えながら待っていた。

 僕の待ってた人たちのうち何人かは待ち合わせ時間の五分前くらいにやってきた。

「おお、ムコウダ、もう来てたのか。」とサークルの一年先輩のコバヤシさんに言われて、

「あ、はい。自分、待ち合わせのときは、遅刻するのが怖いから結構早めに待ち合わせ場所に行く癖があって。今日も実は十分前からここにいたんですよ。」と答えた。

「へええ。でもこの季節はそういうことしてると寒くない?せめて建物の中にでも入ってればよかったのに。」と言ったのはこれまた一年先輩のヤマサキさんであった。

「いや、昼間だから大分マシですよ。日向にいればなんかポカポカしてくるし。」

「ふうん、そう?それでも寒そうだけどね、あたしだったら。」

コバヤシさんもヤマサキさんも、僕と同じように黒いスーツを着ていた。ヤマサキさんはその上から一枚コートを着ていたが。

「しかしスーツに合わないなムコウダは。『馬子にも衣装』って言うけど、お前はそれでも何か違うな。何か、それにネクタイのつけ方間違ってないか?」とコバヤシさんが言ってくれたおかげで、僕はネクタイの締め方が間違っている事に気付き、即座に直した。

「あ、ありがとうございます。もしこのまんま式に出てたら顰蹙を買ってたかもしれない。」

「全く、気をつけろよ。そんなんじゃあ就職も出来ないぜ。」

「はあ、そうですかね。」

「そうだ。いや、本当の話、気を付けた方がいいぜ。」

「わかりました、うへえ。」

などと、いつものような会話をしていた。するとヤマサキさんがポロッとこう言った。

「・・・こうやって普通に話してると、なんだか実感がわかないね。まあ、あたしも未だに信じられないんだけどね。・・・まさかこんな時期に人の葬式に行くなんてね。しかも後輩のとあっては、中々にきついものね。」

「・・・ああ、まさか死んじまうなんてな、アマノ。」

 

 僕たちはとある大学のサークルのメンバーだった。だったって言うのはおかしいか、別になくなったわけでもないから。僕たちはとある大学のサークルのメンバーである。活動は漫画読んだり、ゲームやったり、飲み会したり、要するに、遊ぶのが主な活動内容だった。一応はイラストレイション系のことをやるサークルで、こう、クラシックな感じの、絵画的なものを描くのではなく、ポスター的なイラストだったり、本の挿絵だったり、音楽のイメージ化とか、そんな感じで色々とやっている。中には漫画を書いてる人もいるくらい、活動は自由だった。みんな、遊びの合間にちょっと遊び半分でイラストを描いたりしていた。それでも中には真面目にする人もいたし、凄いものを書く人もいたけれど。まあ、部室には漫画やゲームが置いてあったから、描く作業をするときは部室の外でやっていたくらいだから、どちらかと言えばやっぱり娯楽系のサークルだろう。そのためか、いつも遊んでばかりで、時々しょうもないイラストを書いているだけの人もいたりする。別に誰も咎めない。そのくらい、自由だった。僕がこのサークルに入ったのも、その自由な感じに憧れたからかもしれない。まあ、もちろん真面目にやっている人も結構いたが。

 そんなサークルの中に、アマノという男がいた。年や回生は僕と同じで、確か文学部だった。(どうでもいいけれど僕は教育学部である。)身長は大体180cm前後くらいで、髪がボサボサしてて、大雑把な奴だった(平気で2〜3日同じ格好でいることがしょっちゅうだった。)が、顔が良かったから女子からもそれなりにモテた。妙に変な奴で、時折変な行動をしていた。まず、絵を描くときはいつもヘッドフォンを付けて、何か聴きながら作業していた。何度かそれを聴かせてもらったことがあったが、なんだかよく訳の判らない音楽だった。ある日はすごいノイズばかりのやつだったし、ある日はジャズが狂ったようなやつだったりした。で、時々彼の横で作業していたら、彼が立ち上がって何か訳の判らない感じで踊りだすのを見かけた。周りの先輩などは最初はなんだかびっくりしていたが、だんだん慣れてくると、「お、またなんかやってるな。」とか「例のあれがまた始まったね。」とか言ってた。また、彼は基本的に毎日一回は部室に顔を見せる、かなり豆にサークル活動しているやつだったが、それが何週間もの間ずーっと来なかったことがあって、その時はみんな彼のことを心配していたが、数週間後彼が部室にやってきたとき、彼はなぜかバッグいっぱいの『白い恋人』を引っさげてやってきた。どういうことか聞いても「色々あってさー。そう、まるでアバロン1000年の歴史のようにー。」などと訳の判らない事を言って誤魔化していた。雨の日には「洗濯と体洗うのが一緒に出来るよ!」とか言って、石鹸を持って雨の中へ駆け出していった事もあった。朝一番に部室に来たら、彼がそこにあるソファーで寝てた事も何度かある(どうやら部室で一晩過ごしたらしい)。そのうち何回かはなぜか彼の服がボロボロになっていたことがあった。しかし意外と真面目なやつで、絵を描くときには周りが見えなくなるほど集中してたりした。それがまた奇行に繋がるのだが・・・。

 しかし僕は大学の入ってから、4月のあのサークルに入った日から12月のあの雪が降った日までの彼の生活のある側面を知っているだけに過ぎない。


「ねえムコウダ、マツモトは今日の葬式に来るって言ってた?」とヤマサキさんが僕に尋ねる。

「いや、聞いてないっす。でもどうでしょうかねえ。何せ彼氏があんな死に方をしてしまったもんだから・・・。オレなら塞ぎ込んじゃうかもしれません。」

「全く、何であんな事になっちまったんだろうな・・・。」とコバヤシさんが言った。

 今日から三日前の雪の日(とても寒い日だった)、博多港にて若い男性の水死体が見つかった。警察の調べによると、その男性は天野宗一郎という名の大学生であったそうだ。上はジャンバー、下にはジーパンを着ていて、首にマフラーをしていたらしい。発見者がどうにかして水上の港のコンクリの出っ張りに引っかかっていた彼を助け揚げたときには、既に心臓が止まっていたとのこと。体に特に目立った外傷は無く、溺死か凍死、もしくは両方であろう。

 実はその日、僕たちは彼に普通に会っていた。午前中に部室に行ったら、やはり彼がいて漫画を読んでいた。それでそこにいた数人やその後やってきた数人と彼は普通におしゃべりをしたのだ。正午過ぎに、彼は「今日は用事があるから。」と言って、いつもより早く帰っていった。そのときが、僕たちが生きている彼といた最後のときであった。それ以降、何があったのかは何も知らないし判らない。警察が捜査しているが、それも手がかりが少なくて難航しているらしい。なお、この事件は全国規模のニュースでも取り上げられた。『大学生が寒い雪の日に謎の水死』というその内容がどうやらかなりセンセーショナルだったようで、様々なニュースキャスターや専門家、果てはどうでもいい芸能人までもがこの事件について何か語っていた。

「おれ最初テレビでアマノの名前見たとき、本当に自分の目を疑ったもん。なんて言うか、全く意味が判らなかった。同姓同名かなあとかも思ったけれど、○○大学の学生で天野宗一郎って言ったら、もうね・・・。」コバヤシさんが言う。

「・・・何かあったんですかね?事件に巻き込まれたとか?まさか投身自殺?」

「何言ってんだ、お前みたいな暗いやつならまだしも、あいつはそう簡単には死にそうにないとおれは思ってたぜ。」

「いや、でも、ひょっとしたら相当苦しい事が色々あったんじゃあないですかね?彼、悩みを人に見せないタイプだったと思いますし・・・。」

「・・・どうであれ、彼はもうこの世にはいないのね。」とヤマサキさんが呟く。僕たちはみな少し俯いて、他の人たちが来るのを待ち続けた。


 約束の時間丁度ごろに、フルハシやモトムラやワカツキ、それにクチノさんやシイナさん、ゴトウさんがやってきた。みんな同じサークルの人間だ。

「おお、ゴトウさん、それにクチノやシイナ、あと一年連中か。こんちわ。他の人たちは?」とコバヤシさんが挨拶する。

「ハヤシとマエスギは来ないらしい。さっき連絡があった。あとの連中は知らないな。ウチムラはまだ来てない?」とゴトウさんが辺りを見回しながら言う。みんな黒いスーツまたはドレスを着て喪に服していた。

「・・・しかし、なんとも妙な気分だな、後輩の葬式とはな。」と言い、ゴトウさんはポケットからタバコを取り出して、そこでライターが無いのに気付いた。ゴトウさんは僕らの二個上の先輩で、背が高く体ががっちりしている、いかにも先輩と言った風貌をした人だ。

「おう、誰か火持ってないか?」

「あ、僕持ってますよ。僕もタバコ吸うんで。」と言って、ワカツキがカバンから百円ライターを取り出す。

「お、悪いね。」とワカツキに礼を言ってゴトウさんはタバコに火をつけ、煙を吐いた。

「あ、オレにもライター貸して。うっかりして持って来るの忘れたよ。」とクチノさんがタバコに火をつけて、ライターをワカツキに返した。

「そういえば、確かアマノのやつはタバコ嫌いだったなあ。クチノや先輩たちがタバコ吸ってたら、部室から出て行ったり、灰皿を手にとって火を消すように求めてたりしてたなあ。自分も部室でビールやチューハイ飲んでたくせになあ。」とシイナさんがちょっと嫌味っぽく言う。でも多分アマノのことを嫌っていってる感じではなかった。

「・・・しかし、何でまあこうなったんでしょうかね?確かオレやムコウダが部室に行ったときには普通にマンガ読んでたし。『稲中』読んでなんかゲラゲラ笑ってたのに・・・。」と言ってモトムラがアマノの話を切り出した。

「まあ、そりゃあ誰もあいつが死ぬところを実際に見たわけでもないし、かといってあいつが遺書を残して死んだ訳でもないしなあ・・・。」というシイナさんの言葉をかき消すように、フルハシの携帯電話の着信音が鳴った。

「あ、ちょっとすいません。・・・・・・・・・・・・。どうやら来ないみたいです、まっちゃん(マツモト)。メールが来て、なんだか気分が悪いって。」

「やっぱりか・・・。まあ無理するなよって言っとけ。」とコバヤシさんが言う。

「あれだけテレビやら新聞やらに引っ張り出されたら嫌にもなってくるさ。本人は悲しくてやりきれないのに、あいつら連日マツモトの家に押しかけてインタビューを迫ったらしいぜ。」とクチノさんが続けた。

 アマノの死後、僕らの大学やその周りにはマスコミ関係者が死ぬほど集まってきた。彼らはアマノやその周辺の人間関係、彼の最近の行動などについて、何度も何度も、しつこく尋ねてきた。特に、同じサークルだった僕たちや、学部が一緒だった人たちなんかは本当によくつけ回された。僕も、何度もインタビューを求められた。

「天野君の友達ですか!?今回の事件についてどう思います!?」

「天野君が死んだ日に彼と話したって言うのは本当ですか!?彼は何と言ってましたか!?」

「最近の彼の言動において、何かおかしい事はありませんでしたか!?どんな些細な事でもいいんでお願いします!」

「天野君の恋人さんについて、何か教えていただけませんか!?」

「もし良かったら、他の天野君の知り合いを紹介して欲しいのですが!?」etc・・・・・・。

みんなうんざりしていた。よくもまあ、仕事とはいえここまでズカズカと聞けるものだと思った。少なくとも僕は以前よりもずっとマスコミが嫌いになった。ワイドショーや週刊誌に出てくる彼についての話を見るだけで腹が立つ。

「あいつら、どうやって調べたか知らないけれど、アマノの奇行を取り上げて、『彼は情緒不安定な青年だった』とか、『彼はもしかしたらこの現代都市の生活の尊い犠牲者かもしれない』とか、本当に訳の判らない事ばかり言うんですよ。挙句、勝手に自殺説やら他殺説とか言い出して、仕舞いにはサークルにおける人間関係のもつれだとか、恋人との痴情のもつれが原因にあるのかもしれないとか。もう無茶苦茶だ!」とモトムラが怒りを吐き出す。それにヤマサキさんが付け足した。

「・・・確かに、あれは酷いよねえ。まあ、あいつの事を嫌ってたやつも確かにいたよ。それにあいつとマツモトも何回かケンカもしていたようだし。でもさ、そういうのをいちいち調べ上げて、それで何の確証もないのに犯人探しを勝手に始めちゃってさあ。・・・・・・なんて言うか、あいつやわたしたちって、ワイドショーのオモチャになっちゃったのかもね。」

「本当どうにかしてるよ。こっちはもう怒る気力もないって言うのに・・・。」とコバヤシさんが呟く。

「とりあえず、そろそろ斎場に行くか。ウチムラはまあ、そのうち来るだろう。あいつ、よりによってこんな日に遅刻しやがって。」とゴトウさんが言ったので、僕たちはとりあえず斎場へ移動することにした。


 アマノの死はあまりに突然すぎた。何が原因で死んだのかも、死ぬ前に彼に何があったかも、一切判らず、残された僕たちは悲しみとともに妙な理不尽さや気味の悪さも感じた。彼は、彼の死に関することはほぼ何も残さなかったようだ。僕たちに与えられた情報は皮肉にもマスコミが何度か言及していた彼の奇行の中の、時々数週間姿を消していた事と彼の死が何か関係しているのかもということくらいである。僕たちは多分、皆、僕たちの関係のある人たちの中に、彼を殺した人、もしくは彼の詩の原因となった人はいないと考えている。確かに、小さな恨みとかならばそれなりに持っていないこともないだろうが、それを差し引いても、少なくともサークルの中で彼は割りと皆から好かれていた。マツモトにしても、確かに少し仲が悪かった頃があるにはあったが、確か僕が知っている限りで最後に二人が衝突したのは夏休みが終わった直後だったはずだから、それ以来、結構仲良くしていたように思う。だから、とりあえず、サークル内での人間関係のこじれ、みたいなものは彼の死の原因ではないと皆思っている。まあ、もしかしたら僕たちの中の誰かが実は裏で何かしたかもしれないし、実は水面下での争いがあったかもしれないけれど、僕はそんな事すら考えたくないなと思った。サークルないでは皆、なんだかんだ言いながらもかなり仲がよかった。彼と僕らには、それなりの『絆』があると思ってる。そもそも、自分の知り合いが人殺しかもしれないなんて事、考えたくもないのだけれど。


 斎場に着くと、サークルの他の先輩たちなどの別行動組が僕たちより先に来ていた。丁度式が始まる十数分くらい前に着くように集合し、歩いてきたので、付いた頃には式の開始まであと13分くらいだった。他にどんな人たちが来ているのかふと気になり、僕は周りを見回した。まず、僕たちと歳が大体一緒くらいの人が四人。アマノの友達か何かだろうか。なぜか普段着であった。それと、老夫婦が一組、こちらはさすがにきちんと喪服を着ていた。おばあさんがハンカチで目の辺りを押さえていて、そんな彼女をおじいさんが悲しそうに見つめていた。その他は、おそらく斎場の人と思われる人間と僕たちと言う例外を除くと、驚く事にほとんど誰もいなかった。多分、遺族の数人は式の準備をしているだろうから、そこにいなかったのであろうが、それにしても少なすぎた。そういえばマスコミ関係者のような人々も一切いなかった。斎場も小さいところだった。なんだか、照明が薄暗い。葬式のセットも僕が始めて見るような安っぽいものだった。非常に簡潔なセットで、装飾が異様に少なかった。こんなセットもあるのかあと、少しだけ感心したが、こんな環境の下アマノは葬られるのかと思うと、寂しい気持ちになった。よく、お坊さんが葬式のときなどに、『これだけの人に送られて、故人も幸せな事でしょう。』といった事を言うけれど、今回のはお世辞にもそんな事言えないほど寂しいものだった。また、式のときに雨が降っていると、『故人の、また残された人々の悲しみが〜』といったこともお坊さんは言う事があるが、今日は雲一つない、カラッカラに晴れきった空の日だった。何と言うか、『悲しさ』よりも『寂しさ』の方がその場を支配していた。さすが錦が始まる十数分前だからと言うのもあるが、僕たちは斎場に入っていすに座ってから、ほとんどしゃべらなかった。他の人たちも皆、何もしゃべらずひたすら式が始まるのを待っていた。


 式は二、三分押しで始まった。まず、アマノのお母さんらしき人が出てきて、挨拶をした。そういえば、天野のお母さんを見るのはこれが初めてだった。太ったおばちゃんみたいな感じの人で、髪がぼさぼさしているところ以外は息子とちっとも似ていなかった。挨拶の内容は割とそっけないものだったが、たしかにここで無理に頑張る必要も無いなとも思った。また、マスコミ関係者には『自分たちの内輪だけで式を行いたい』と頼んだため、今日はカメラの一台も斎場にないということが判った。しかし、アマノのお父さんの挨拶はなかった。どうやらお父さんはそもそも式に来ていないようだった。

 お母さんの挨拶があった後、そのままお坊さんのお経が始まった。昔から、お経とは眠くなるものだと思っていた僕だったが、このときばかりは少しも眠くならなかった。他の人も、一切うとうとすることなく、とても真面目な顔をしてお経と反復する木魚のリズムを聞き続けた。やがて、お焼香の時間になり、まずはアマノのお母さんが、次に先程の老夫婦が、それから僕たちが行った後、最後に普段着の四人が行った。棺の中から、動かなくなったアマノの顔が覗いていた。それを見たとき、僕は悲しみとともに、なんとも嫌な気持ちになった。それは一種の嫌悪感にも近いものだった。死因がおそらく水死であるため、天野の顔は生前とそれほど変化は無かった。それがかえって怖かった。

 普通の葬式ならもっと時間がかかるであろうお焼香の時間が、かなり早く終わってしまったときは、言い切れない寂しさを感じた。その後もお経が続きそれが終わるとお坊さんが挨拶をして、そしてまた天野のお母さんが挨拶をした。式はそれで終わった。なんともあっけない終わり方だった。斎場の外に出ると、僕たちは皆、どんな顔をしたらいいのわからないといった感じの、困惑した表情をしていた。太陽は西のほうに傾き、空が次第に茜色に染まっていくのが判った。斎場を後にする途中、カメラを持った人やレポーターらしき人など、マスコミ関係者が何人かいてインタビューを求めてきたが、僕たちは彼らの言うことに一切耳を傾けずに、何も言わないで彼らの横を通り過ぎた。数人しつこく追い掛け回してきたので、先輩の誰かが「いい加減にしてください」と言い、どうにか振り払った。


 その後僕たちは親不孝通りにあるとある行きつけの飲み屋に移動して、『弔いの酒盛り』をすることとなった。どうでもいいけれど最近ではイメージの悪さとそれに伴う犯罪の増加を防ぐとか言う理由で、観光ガイドなどでは『親不孝通り』とは呼ばないらしい。当て字で『親富孝通り』。なんだか馬鹿らしいと言うか。

 店に着くまでの間、僕たちは色々とアマノの事、アマノの思い出について語り飛ばした。歩いて斎場から店まで移動するとそれなりに時間がかかる。このときはさすがにアマノに関係ない話だとか、暗い話などはしたくなかった。皆、思い出に浸る事を望んでいた。


 アマノとは中学からの仲で、よく一緒に遊んだというモトムラの話。

「中学の頃からアイツは何か変わったやつだなあとは思ってた。アイツはやたら本とかマンガとかゲームとかに詳しくて、結局大学入るまでは、おれの知るかぎりではアイツのマニアックな話についていけるやつなんていなかったな。まあ、だからってハブッたりはしなかったなあ。何か、あんまり嫌味ったらしくなかったし、それにアイツ、前から奇妙で珍妙な行動繰り返してたから、何か全然憎めなかったなあ。ア、でもテストをおれたちが解いてたときにアイツがプリントの裏に絵を描いてて、しかもそのくせ成績上位だったときはちょっとムカついたな。

 まあ、でも万能人間って訳でもなかったかも。まず、運動神経はたいしたことなかったな。って言うか、アレは無関心って感じだったかも。通知表の穴はいつも体育だったな。あと、絵も初めから上手かったわけじゃなかったなあ。中学のときのアイツの絵はなんか訳判らなかったもの。本人は前衛芸術だって言い張って先生の失笑を買ってたし。アイツが上手くなりだしたのは高校入ってしばらくしてからだったかな。昼休みや放課後、時々その辺の物とか人とかをスケッチしてた。でも美術部には入らなかったな。おれ、高校のときは美術部だったから、アイツを何回か誘ったんだけど、『今のほうが自由に色々やれるから、今のままでいいや』って言ってた。だから、大学入ってアイツがサークルに入るって言いだしたときはびっくりしたもんさ。」


 アマノとよくゲームの話をしていたゲーマーのワカツキの話。

「オレはまあ、いろいろゲームをするわけだけどさあ、割と余裕持ったプレイがすきなんだよ。RPGだったらレベルを上げまくってボスを一気に殲滅するとか、アクションゲームだったら安全第一で進んで、最強の攻撃手段で敵を倒す訳。でも、何かアマノは変な奴でねえ。えらく自分のプレイに制限をつけるんだ。RPGだったら全然レベル上げないでクリアしたり、仲間一人だけでクリアしたりとか。オレが見せてもらった、『ロマサガ2』の『皇帝ひとりクリアー』とか、普通にスゲーとか思ったもん。マリオとかも全然キノコ取らないで進むタイプ。あれって一種のマゾプレイだよなあ。オレがアマノにそういったら、『でも、クリアできたら、普通にゲームクリアするのの何倍も嬉しいもんだよ。』って言ってた。あと、『全滅しても、その仕方によってはゾクゾクする』とか。やっぱマゾじゃねえ?

 ただアマノは格闘ゲームが苦手だったなあ。コマンド入力が全然出来なくて、技を出せないんだ。で、その隙にオレがコンボ入れてボコすわけ。そしたらいつかアマノがキレて、やたら消極的な攻撃を繰り返すの。ヒットアンドアウェイって言うの?あれ仕出すと急に強くなるんだよなあ。まあ、普通に間合い詰めて潰すけど(笑)。

 でさあ、オレなんかは割とこう、オタクっぽいって言うのかな。まあ本当にオタクなんだけどさあ。・・・見た目とかも。でも、アマノはなんか、あんなにいろいろとマニアックな癖して、何か凄くオタクっぽくないのな。いや言動なんかはかなりいろいろなオタク入ってたと思うんだけど、でもやっぱり見た目のせいかな、全然オタクに見えないの。何か悔しかったね、アレは(笑)。だってあいつモテるんだもん。あいつの周りにいた女の子たちにアマノがどれほどオタクか言いふらしてやりたかったよ。・・・・・・アマノ死んじゃったから、もうしても意味ないけど。」


 マツモトと仲が良くて、彼女に一緒のサークルに入ろうと誘ったフルハシの話。

「わたしとまっちゃんは塾でたまたま席が近かったから、いろいろしゃべってたら気がついたら仲良くなってたの。確か高2のときかなあ。それで、いろいろ趣味が合うことが判ったから、塾の始まる前とかに一緒に買い物とかしてたんだ。大体学力も一緒くらいで、だから一緒の大学に行けたらいいねって言ってたら本当にそうなっちゃって。で、わたしは絵とか描くのが好きだったから、まあ、絵って言っても大層なものじゃなくて、割とテキトーなものだったけど、でそれで、良かったらまっちゃんも一緒に入らないって誘ったの。まっちゃんは高校は美術部だったらしくて、何か風景画とかやたら上手くてさあ。それで、どの美術系サークルはいるか迷ってたから、わたしが誘ってあげたの。

 で、そしたらそのサークルにアマノ君がいた訳。最初にわたしたちがアマノ君を見たとき、彼はフラフラしてて、歩くにもよろけまくってたから、どうしたんですか?って聞いたら、『エレクトリック混乱主義者のオレの酒毒に侵食された脳が繰り出す言葉を呟きながら、鬱って曖昧っていたから』とか訳判らないことを言って、その場にぶっ倒れたの。そのとき彼が手に持ってた書きかけのイラストが何か、やたら上手くて、ひねくれてて上手だったのを見て、二人でスゴーイとか言ってたんだったっけ。特にまっちゃんのほうがやたら凄い凄い言ってて、気が付いたら何かよく一緒にいるなあ、て思ってたらいつの間にか付き合ってる、とか言ってビックリした。後はまあ、色々あったみたいだけど。わたしがこんなこと言うのもアレだけど、アマノ君変人だったし。ウン、でも、それにしてもこれからどうするんだろう、まっちゃん・・・。」


 サークルのメンバーの中で唯一アマノの音楽の趣味についていけたヤマサキさんの話。

「確か、あたしが部室で作業してるときに掛けてたCDにアマノが食いついてきたんだったかな。『レイ・ハラカミいいですよねえ!』って言われて、今まであたしがこれを聴かせて、その返事でいいねって言ってくれる人はいたけど、元から知ってる人ってのは中々いなかったから、ちょっと嬉しかったかな。で、今度は逆に、あたしが部室に行ったらアマノがベルセバを掛けて作業してたことがあって、そのときに色々話して、そのとき彼のへんじんっぷりが始めて理解できたかな。

 あたしはバンドサークルとこれと兼部してて、そっちの方の練習を作業の合間にやってて、アコギ弾いてたんだけど、そしたら天野がいちいちこれはあの曲ですねとか言ってなんかニヤニヤしてた。結構あたしは色々と聴いてるつもりだったけど、アマノも多分相当いろいろ知ってたと思う。出、他の人から色々話し聞いてたら、何か色々と趣味がディープなやつだったらしいね。ゲームにしてもマンガにしても音楽にしても、ちょっと普通の人が行かないようなところまで平気で行っちゃうような子だったんじゃない。後、時々発作みたいにやってくる奇行にはいつも笑わさせてもらってたかも。んー・・・、いいやつだったのにねえ、死んじゃうなんてね。」


 ぞろぞろと天神の辺りをウロウロする。皆アマノとその周辺についての話をしている。まあ確かに、普通の世間話をする雰囲気でもなかったが。これほど集団で歩いてると、他の通行人の邪魔になるかなあと少し思ったが、今日だけは許してくださいと、人知れず許しを請う。この行進も、ある意味では『葬列』なのかもしれないなと思いながら歩いていく。みんなの話を総合すると、アマノは変なやつだったが、結構皆から好かれているようだった。まあ、死人に悪口を言うのはナンセンスではあるから、その辺もあるのかもしれないけれど。でも、皆に結構愛されてるアマノは、まあ死んじゃったけれど、でも結構幸せ者かもしれないなあと思った。街の人ごみ・車の渋滞を潜り抜けて進んでいく、どこか楽しげで寂しげな葬列。


 飲み屋に着く頃には丁度日が沈んで夜がやってくるその境目くらいの時間だった。色々とおしゃべりを続けながら席に着く。そしてお酒がやってきた頃に、さっきの葬式では遂に現れなかったウチムラさんがやってきた。

「いやあ、本当にごめん。集合に遅れたのは、バイトのアレが遅れてしまって。その後、斎場の場所がどうしても判らなくて時間食ってた。本当にごめん・・・・・・。」

「お前なあ。・・・まあ、もうここで文句行っててもしょうがないから、お前もこっち来いよ。」とゴトウさんがウチムラさんに手招きをする。

 大体メンバーが全員そろったところで、飲み会幹事で先輩のゴトウさんが立ち上がって、挨拶みたいなものが始まった。

「えー皆様、この度はアマノ追悼のこの会に参加していただき、ありがとうございます。アマノが何故死んだのか、どうやって死んだのかが未だに判っていない今、彼の死は皆様の心に大変大きな衝撃を与えたと同時に、死の理不尽さとでも言いますか、その恐怖が刻み込まれた方もいるかもしれません。わたしが言うのもアレなのですが、彼は非常に面白い人間で、わたしたちに色んなものを与えてくれました。だからわたしは、この理不尽な彼との別れに、正直戸惑っていますが、ただ、せめてこの場においては彼を暖かく送るためにも、無理やりにでも明るく振舞おうと思っています。出来たら皆様も、あまり暗くならずに、彼の話をするもよし、奇行について振り返って笑うもよし、人となりを再確認するもよし。少なくとも彼がわたしたちを見て安心できるくらいに、暗くならないよう盛り上げながら進めていきたいと思います。では、皆様、乾杯!」 


 飲み会の中でウチムラさんがアマノについて語っていた話。

「あいつのイラストって、なんか普通に上手いのとは違った感じがあったな。良くも悪くも歪んでるって言うか、ひねくれてるって言うか。一度、あいつが学校のフリーペーパー用に書いてるイラストを見せてもらったが、確かあれは森の中に人が座ってる絵だったんだけど、よく見たら木の根が座ってる人の足に巻きついていて、その人が動けなくなってそこに倒れているように見えたなあ。森にしても、美しい感じじゃなくて、魔界の植物とか、そんな具合のおどろおどろしさだったな。なんかボツ喰らって愚痴を言ってたけど、あの絵だと確かに仕方なかったかもなあ。その後書き直して普通な感じの森にしていたが。

 人を書くときも、その人の外見上の特徴を表現するのが酷いくらい上手かったな。モデルの人がコンプレックスにしていたところを凄く強調しすぎてケンカしてたりしたし。いいところを強調するのはいいけれど、あいつの場合いいところも悪いところも両方とも特化して描くから、時々酷い絵になるんだよな。しかも、その辺に関してはあいつ、やたら強情で、決して妥協しないんだよなあ。いつもはなんか訳わからないことやってたりするけど、絵を描くときはやたら集中してるって言うか、何かを呪ってるようにも見えたなあ。怨念をぶつける感じ?ちょっと怖かったかなあ、あれは。」


 飲み会の最中に、秋の飲み会のとき(これが僕たちがアマノと一緒にやった最後の大きな飲み会だった)に、アマノがどんな事を言っていたか思い返してみた。

「オレはですね、なんかお酒に弱いらしくて、少し飲んだだけでフラフラしてしまうんですけど、それで昔、ある友達にえらい酷い事しちゃったんですよ。詳しいことは言わないけど、それからそいつに絶交されちゃって、それ以来話してないんですよね。でも、それまではそいつはとてもいい親友だったんですよコレが。・・・だから、当時はまだ意地っ張りだったし不器用だったから上手く謝れなかったけれど、いつか会えたらちゃんと謝りたいんですよね。あんときはすまんかった、許してー、って。」

「おうムコウダ!オレは今はこんなフラフラしてっけど、こう見えても色々考えてるんだぜ。絵のこととか、大学の事とか、将来の事とか。今やってることが上手くいったら、オレ、イラストレーターとかになりたいんだけどさあ、でも高校のときに専門学校行くのは不安だとか思って、ビビってとりあえず大学いっときゃいいかみたいに考えてこの大学入ったんだけどさあ、それでもイラストレーターにはやっぱりなりたいから頑張ってるけど、ウン、今やってることが上手く言ったなら、これ叶うかなあ?でも、なぜかオレの絵は妙に歪んでるって言われるし、悪意がこもってるとか言われるんだよねえ。別に悪意とか全然ないし、って思うんだけど、ってことは、自分が意識しないうちに悪意を絵にしてるのかなあとか思うと、ちょっとだけ不安になるんだあ。あれ、オレなんか、何言ってんのかよく判んなくなってきたあ・・・。」

「自分の言いたいことってのがまずよく判んないようになってきとる。特に最近は。色々気持ちが混乱してきてるのは何でだろうか。何を人に伝えればいいのやら。何をどうしたらいいのやら。そんなのねえ、自分にしか本当のところは判りっこないはずなのに。迷ってこその人生だとは思うけど、最近頭の中がぐるぐるしてる。まあ、年を取ればどうにかなるのかも知れんしね。オレはオレなりの表現をどうにかしたい。ああまたよく判らなくなってきたぜ、飲もう!」


 飲み会が遅くまで続いて、電車がなくなってしまった。帰れなくなってしまった僕は仕方なく、割と近くにあるワカツキの家に泊めてもらった。僕のほかにも何人か電車やバスがなくなって帰れなくなった人が彼の家に押しかけた。一人暮らしの彼の家はこの日は満員御礼だった。話をしたり、ゲームをしたり、買って北ビールを飲んだりしながら時を費やす。

 真夜中、次第に眠くなりつつあった僕を起こしたのは携帯電話の振動であった。揺り起こされた僕はメールの内容を確認する。フルハシからだった。

『まっちゃんがちょっと用事があるから、皆来て欲しいんだって。天野君のことらしい。博多リバレインに集まって、だって。そこにいる他の人たちにも伝えといて。集合は夜明け前5時くらい。』

一体何をする気なんだろうと思っが、とりあえず皆行く事となった。

 夜明け前は寒い。昨日が暖かかったのであまり厚着していなかったのがここに来て裏目に出た。朝早すぎて地下鉄もバスも動いていないので、震えながら歩いていった。風が吹くと肌が切れるんじゃなかろうかとさえ思う。

 

 時間までにそこに着くと、そこにはさっきメールをよこしたフルハシと、マツモトがいた。松本の手には青い花らしきものがあった。

「皆こんな朝早くにごめんね。それと、昨日は葬式にいけなくてごめん。とりあえず、付いてきて欲しいの。」

そして博多リバレインから更に歩く。風が次第に強くなる。海に向かっている事が判った。

 ベイサイドプレイスに着いた。目の前に広がるのは博多港である。天野が冷たくなって見つかった場所・・・。

「わたしね、考えたんだ。」マツモトが話し出す。

「アマノ君がああいう風になって、わたし、どうしたらいいのか判らなくなって。なんていうか、悲しいし、寂しいし、訳が判らないし。で、外に出たらマスコミの人が出てきて色々聞いてくるから、それがとても嫌になって、ここ数日はずっと家にいたの。でも、それじゃあ何の解決にもならないなあって気付いた。皆、葬式はどうな感じだった?」

「ちょっと寂しかったよ。人が異様に少なくて、式自体もかなりそっけなかった。でも、あそこのお母さんが嫌がったのか、マスコミ関係者もいなかった。」と僕が説明した。

「そう・・・。だったら私も行けばよかったのにね。まあ、仕方ないか。それでね、わたしは今花を持ってきてるんだけど、これを海に投げ入れようかと思ってるの。」

「うわ、ちょっとそれはクサくない?」とワカツキが言う。

「・・・まあ、そうだけど、でもわたしが、色々お世話になったわたしが何もしないわけにはいかないし、せめて、と思って。・・・この花ね、造花なの。わたしの誕生日にアマノ君がくれたんだ。何で普通の花束とかじゃなくて造花なのって聞いたら、しおれるっていうことは悲しくて耐えられないとか、そんなこと言ってたの。そのときは、一体こいつは何を言ってるんだろうって思った。でも、今回の事で、その意味がなんとなく判った気がしたんだ。人が死ぬって、それもとても近しい人と別れるって、こんなに悲しい、寂しい。楽しいときが、ずーっと続けばいいのになあって、楽しかったあの頃がずーっと続いてくれればよかったのにって。でも、それもおしまいなんだなあって思うと、家の中でずっとウジウジしてても仕方がないんだなあって思った。それで、生きてた彼が最後にいたこの場所に来て、この花を返そうかなあと思ったの。こんな言い方したら酷いのかもしれないけど、けじめをつけようって思うの。」

 僕は彼女のこの言い分が少し自分勝手な気もしたけれど、特に反論はしなかった。気持ちはわからないでもないからだ。松本がそれで満足して復活できるならそれでいいと思った。他の皆もそう思っていたかもしれない。

 渚に臨んで、朝が来る前の真っ暗な海を眺めた。真っ暗な海はとても冷たそうだった。ここに落ちたときの天野の気持ちはどんなものだったのだろう。冷たくなっていく自分の体をどう思ったのだろう。誰にも判らない。

「朝日を待たなくてもいいの?」とフルハシがマツモトに聞いた。

「そしたら、人が来ちゃうかもしれないしね。それに、さすがにそれはやりすぎかなあって思う。」とマツモトが応えて、手に持った造花を握り締め、真っ黒の海の方を向いて、波止場の淵まで移動して、そして、投げた。青い花が、音も立てずに黒い海の中に消えていった。

 そしてしばらくして、マツモトが言った。

「皆、ありがとう。寒い中わざわざ来てくれて。さあ、帰りましょう。」

そう言いながらも、マツモトが一番そこに残りたそうにしていた。中々動く事ができなかった。多分泣いてた。風が痛かった。

 

 朝一番のバスや地下鉄でそれぞれ家に帰った。帰りのバスの窓から、朝日が眩しく輝くのが見えた。今日も晴れだ。日々は続く。月並だけど、僕たちはやっぱり、死んだアマノの分も生きなきゃいけないのかもしれない。いつ死ぬか判らない。でも日々は続いてく、寂しいだとか、悲しいだとか、切ないだとか言っても。ビルの窓に跳ね返った朝日は異様に眩しい。そういえば前日ろくに寝てなかったから眠くて、その眩しい光に目が眩むので、僕は目を瞑ったが、そのまま眠ってしまった。

≪ トップページへこのページの先頭へ  ≫